A Confession of a ROCK DRUMMER

KenKenという太鼓叩きの独り言。

【好きなアルバムについて語る】YUNGBLUD - 21st Century Liability

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先日Bring Me The HorizonとコラボしたYUNGBLUDさん。その話題性というか、何かと目に付くその立ち振舞いから存在自体は知っていたけど、今回初めてアルバムをちゃんと聴いてみた。

せっかくなので感想を文章で残しておきます。

良い意味で色々と裏切られました。

 

 

 

 

 

 

 

【若気の至りの目指す先は】

 

 

2018年リリース。イギリスのシンガーソングライター、YUNGBLUDのデビューアルバム。

いきなりだけどこのYUNGBLUDというアーティスト、シンガーソングライターって呼ぶのなんかすごい抵抗ある。まぁ本当に、本名ドミニク・リチャード・ハリソンというシンガーソングライターが、アーティスト名義としてYUNGBLUDと名乗っているので、紛れもなくシンガーソングライターなんだけれども。ただそのアートワークやアーティスト写真、ライブ映像などを見て頂ければ、私の感じているこの得体の知れない抵抗感も、何となく分かって頂けるのではないかと期待している。

 

YUNGBLUD…「血気盛んな若者」を意味する"Youngblood"という言葉が由来であるが、アートワークやポートレイト、ライブパフォーマンスや言動など、全てにおいて「若気の至り」を地で行くようなスタイルが目に付く。中性的なメイクアップ、ド派手なヘアスタイル、奇抜な衣装。ライブやPVでは時にヒステリックな表情で叫び声を上げ、平気で自らの顔に血糊を塗ったくる。その姿は1970年代半ばのグラムロック〜ロンドンパンク的スタイルを彷彿とさせる、現代ではすっかり珍しくなったもの。本人も自身のルーツとして、The BeatlesThe Rolling Stones、The Crash、Sex Pistolsなどの名前を挙げていた。

どうでも良いけどこういう見た目って、4〜5人のバンドでやられると正直若干ウザいけど、1人だけでやってくれると楽しく見てられるね、まぁどうでも良いんだけど。

 

そんな若気の至りを地で行くYUNGBLUD、そんな前情報ばっかりが入ってくる中でいざアルバムを聴いてみたら、大方は立ち振舞い通りの音絵巻を広げるが、時に良い意味でギャップのあるアプローチも多い。

特に驚いたのが、リズムに現代R&B、ヒップホップ・トラップ的な電子的ビートが多用され、そこを中心にエモ・ラップ的歌い回しとか都会的なシンセサイザーとかの色んな音が乗っけた、とにかく情報量の多いサウンドなんだけど、そんな楽曲群の根幹を成すのはまさかのレゲエという点。これはちょっと予想外だった。まぁレゲエと言っても、例えばThe Specialsとか後期The Clashとか、最近だとSKINDREDとかの、あくまで「非ジャマイカ人によるレゲエ」を、しかもデジタルで構築してるという事で、純ジャマイカ産レゲエと比較するとかなりアク抜きされてる、というかほぼ無味無臭感は否めないのだけれど。

他にもプロダクション面に目を向けると、ベーシックトラックの大方はProToolsとか使って打ち込みで作られてるんだろうけど、ヒップホップやEDMなどが陥りがちな、自然由来成分0%のような人工的過ぎる質感という事はない。デジタルなトラックと相反するような、プライベートな苦悩を曝け出した歌詞と、イギリス的なアンニュイなメロディラインが混ざった結果、掴めそうで掴みきれない、分かりやすいようで奥深い、独特のサウンドを編み出している。最新テクノロジーにはふんだんに頼りつつも、あくまで曲の基本はちゃんとギターもしくはピアノで作ってるんだろうな、という暖かみとシリアスさが感じられる。

 

 

現在のUKロックシーンの基盤というか主流というかがいつ出来たのかを遡ると、やっぱりOasisに辿り着く。

まぁもう少し辿るとThe Stone RosesとかThe Smithとか、更に辿るとU2、行き着く先はThe Beatles…ってなっちゃうのだけれど、最終更新履歴的な意味で考えてみると、やっぱりOasisらへんなのかなぁって個人的には思っている。

Oasisを筆頭とした所謂ブリットポップムーヴメントによって、「UKロックっぽさ」みたいなのの基本フォーマットが出来上がり、以降多くの行進アーティストによってなぞられてはいるが、逆に言えば二番煎じ三番煎じが進んでいき、結果どんどんローカル性を増していったUKロックは、いつしか世界、というかアメリカ市場への影響力を失っていった。

勿論ブリットポップ以降でも、ColdplayGorillaz、最近だとThe 1975やBring Me The Horizonなど、世界的成功を収めたイギリスのバンドは存在するものの、どれもUKロックのフォーマットからは外れたところにあり、UKロック原理主義者からは冷ややかな見られ方をされているのも事実である。

今思うとThe 1975の登場って、膠着し切ったUKロックシーンに対しての挑発だったんだなって思う。

労働者階級出身、モッズコートなどのカジュアルな服装に革靴、ボサッとした髪、ギターのピックアップはシングルコイルかP-90でジャキジャキした音…みたいな、よく言えば伝統的、悪く言えば古臭いUKロックのフォーマットに対して、80年代型ポップスからトラップまでを飲み込んだ、ワイドな視野で洗練されたスタイリッシュなサウンドと、それに相反するようなリアルな苦悩を過激な表現で曝け出した歌詞、見るからにヤニ臭い・酒臭い・クスリ臭い、危険なオーラを放ったMatthew Healy(Vo.)の存在感…などは、フォーマットをなぞるだけでリアルさを失くしたUKロックとは全てにおいて対極に位置していたし、そしてそれは現在絶滅危惧種とも言われる「ロックスター」像をしっかりと再現したものだった(Matthewが以前『俺はRadiohead派だ』と発言したのも、テンプレ化したUKロックを揶揄する意味もあったのではないか、というのは考え過ぎか)。

 

YUNGBLUDが目指しているのは、Matthew HealyがThe 1975と共に成し遂げた「ロックスター像の復権と再構築」であり、それをThe 1975よりもっと自由、悪く言えば無秩序なアプローチで目指しているように見える。

とにかくクールだと思ったものは貪欲に取り込み、気に喰わないモノにはとことん噛み付いていく。そして彼のルーツであるロック・パンクアーティストの様に、現代ロックのセオリーを徹底的に無視した創作スタイルと、ジェンダー観を初め既存の価値観に対してとことん挑戦していく立ち振舞いは、本作以降より過激さを増していく。

そんな姿が業界内でも話題となり、Machine Gun KellyやHalsey、Marshmelloなど幅広いアーティストとのコラボも積極的に行っているなど、イギリスという枠を超えた活動を展開するに至っている。

現在の主なマーケットとしては、先述のコラボのメンツ的にもイギリスよりはアメリカ中心なんだろうな、と想像。まぁ似たような方向性を目指してるBring Me The Horizonも今や完全アメリカに照準合わせてるし、今のところこの手の音楽性なら「アメリカで受け入れられたならイギリスもイケる」な流れに全体的になってる感あるし、Machine Gun Kellyみたいなヒップホップアーティストへの接近(ちなみにこのコラボ、背後にはTravis Barkerもいる)は、ロックはあくまでメインストリームで闘えるという事を証明しようとしているに他ならない。

 

ただこう言った彼の立ち振舞いも、ある意味若さ故のエネルギーというのが必要不可欠であろう事は想像に難くない。鬱もフラストレーションもごった煮して、こういった形で爆発させるには、やはり若さというガソリンが絶対的に必要なのだ。まだ20代前半だと言うが、ある程度年齢を重ねた先にどのような姿を目指しているのかが現時点では全く見えないのが、楽しみな点であり同時に不安な点でもある。かつてパンクが初期衝動をすり減らし切った先に、その後進む為のエネルギーを見出せず消滅していった歴史があるように、彼も何かのタイミングで息切れしてしまわないかが少し心配。

…っていう意識は多分本人の中にも多分あるだろうけど、結局はそんな深く考えてない可能性の方がデカいかも。

それこそYUNGじゃなくなった暁には、かつてDavid BowieZiggy Stardustを葬ったように、YUNGBLUDという名前もあっさり捨ててまた別の名前でも名乗り出したりして。

もう既にここまで振り切ってるのならそれくらいやってくれないと面白くないかも、なんてね。